強くなりすぎた・・・
・・・おかしい。
どう考えても釈然としない。
今までは魔王を倒す為がむしゃらだった。
そして幾多における苦難の末、遂に魔王を超える身体能力を手に入れたんだ。
これ、凄い事なのよ。ホントに大変なんだから。
解る?一行で言っちゃったケド、ホント死ぬかもって位大変なんだからね。
思えば王様に呼ばれた宴から明らかに何かが違って居たんだ。
いや、確かに俺も悪い事したなとは思ってるよ。
ついつい全力でクシャミぶちかまして宮殿大広間半壊させちゃったからね。
だけど言うなればあれは唯の生理現象、不可抗力で起こった事故じゃないか。
いやね、確かにちょっとだけだよ、ほんのちょっとだけ。
風圧でぶっ飛んだ柱に真っ青になってる王様見て『このおっさんに全力でデコピンしたら何十メートル位吹っ飛ぶかなぁ』とか考えてた事は否定しないよ。
だけど考えるだけだよ!言葉にもしてないよ!むしろふっと過ったお茶目心だよ!
俺もそこんとこは良識ある大人だしそもそも魔王から世界を救った勇者だしね。
それよりも王様から褒美に貰ったこのお城。
・・・おかしいでしょ?
いや、間取りとか拡さとかは問題無いよ。お城の外観も超カッコいいし。
自然豊かな森に面したバルコニーで小鳥の囀り聴きながら年代物ワインくいっとやってる時なんかはサイコーだよ。
だけど最寄のコンビニまで車で二週間ってどういう事?
どれだけ田舎なのよ!てか俺以外住んでる人間見た事無いよ!少なくとも城周辺三百キロ圏内では。
どうするのよ!醤油でも切らしたらお隣さんへ向かうまでかなり冒険の旅だよ。
むしろ此処に越してきてから人と話した事はおろか出会った事も無いよ!
だだっ広いお城の掃除とか一人じゃ大変だから最近じゃ魔王居なくなって仕事に困ってた魔物の皆さんに働いて貰っているよ。
いや、彼等に不満は無いんだけどね。
低賃金で良く働いてくれるし料理も上手だし話し相手にもなってくれるし最近じゃ趣味の晩酌にも付き合ってくれるんだけど、問題はそこじゃないのよ!
おかしくない?
俺、魔王倒した勇者だよね?
村人とかに手振られたりサインねだられたりギャル達の黄色い声にキャーキャー迎えられたりそんなオプション付いてないの?
同じ仲間でも魔法使いとか僧侶とかモテモテで良い暮らししてるみたいだよね。
僧侶は病院立ち上げて『奇跡の名医』とか言われて崇められてるみたいだし魔法使いに至ってはプリンセスなんとかって芸名名乗って占い師で大儲け、最近じゃ売れっ子グラビアアイドルとしても雑誌にテレビに大忙しだもんね。
あー良いな、みんな良いな。
俺もモテモテでキャーキャー言われたいよ。
あ、そう言えば戦士の奴はどうなったんだ?
確か宴の後、王宮の部隊長に任命されたんだよな。
アイツ俺より筋肉ダルマだしな・・・苦労してんだろうな。
宴のドサクサ以降会ってないしカタブツで面倒臭い野郎だけど久々に電話してやるか。
『お掛けになった電話は、現在使われておりません』
戦士・・・おまえもか。
最近携帯替えてもみんな俺だけには教えてくれないんだよね。
僧侶なんか魔王決戦前日に魔法使いとデキてたし。
狭い宿屋の隣でギシギシギシギシあーもうこちとら唯でさえ気が張ってんのに眠れやしない。
なにが『俺の回復魔法で何ラウンドでも回復しちゃうぞー』だよ。あー思い出したら腹が立ってきた。
結局俺と繋がってる人間はたまにメールをくれる王都のキャバクラのマリンちゃんだけか。
マリンちゃんのお店にももう随分と行ってないな。
・・・そうだ!
このお城にマリンちゃん達を招待すれば良いではないか!
ひらめいちゃった俺、超名案!俺、策士!
そうと決まったらお城の飾り付けしなきゃ。
キラキラのモールとか折り紙の輪っかとかごちゃごちゃしたアレとかいっぱい柱にくっ付けなきゃ。
そうだ!テーブルクロスはマリンちゃんの大好きなピンクのハート柄にしよう!
よし!今日はバイト料も奮発しちゃうぞ!
魔物のみなさーん!
この招待状を王都のキャバクラ、スケスケパラダイスまでお届けしてちょ。
・・・その夜だった。
王都で魔王討伐隊が結成されたのは。