反省はしている。

妄想・性癖・思い込みを色濃く含んだ不甲斐無い創作物集です。
充実した無駄な時間を過ごしたい時に。

youtubeで楽曲挙げたりFacebookやってたりなんかもします。
各サイトで『キジマタク』を検索頂ければニョロっと出てくるようです。

最後のトリック。

『良く此処まで辿り着けたね・・・そうです、私がサイレント・リバーズです』



真っ暗な山奥、何処と無く寂寥感と薄気味悪さ漂うもう随分昔に廃墟と化したであろうボロボロの工場。その地下室に灯る明かりは俺のすぐ後ろに立つ敏腕探偵・多川静の持つ小さなペンライトのみ。


声の主は多川とその助手である俺、土屋誠が何年も前から追い続けて来た連続殺人鬼、サイレント・リバーズ。


薄汚れた地下室にポツンと置かれたスチールのテーブル、その中央に不自然に置かれた電池式のDVDプレーヤー、そのモニター越しに奴が居る。


声紋を替え、特徴無いパイプ椅子に座り真っ黒な皮手袋、どっかで見た有名ホラー映画のマスクを付け、ブカブカのコートを纏い顔も体系も判別困難にはしているが、その形容し難きドス黒い禍々しさだけは隠しようもなくその内面から滲み溢れている。


拭いよう無き恐怖感と緊張感で言葉一つ出せぬのはどうやら俺だけではなく百戦錬磨の多川ですら一言も発する事無く小さなモニターを凝視しているようだ。


『探偵、多川静・・・土屋誠君・・・君と出会って早数年。短い期間だったが、私にとっては昔からの親友を得たような濃密で素晴らしく充実した素敵な日々だったよ』


伝う汗が額から顎先へ、そこから乾いた床へ一つ、また一つと小さな水溜りを作って行く。


『そんなに緊張しなくても良い。今日はただ君に少々私の話を聞いて貰いたくてこのDVDを遺したのだよ、私が君に手を加える事は無い事をここに約束しよう・・・私は君が知っての通り、決して捕まらぬ綿密な計画の下、多くの人間の命を奪い続け、気が付けば一生掛けても使い切れぬ富を手に入れた。物心ついた頃から人を殺め金品を奪って来た私にとって、人の命とは比べるまでもなく金よりも軽い存在だった。完璧なハズだった我が人生設計・・・だが私は一つ大きな勘違いを犯し続けていたのだ』


モニターの殺人鬼はそこで一息ついた。マスク越しのギラついた目が一瞬淋しそうに俯いた。


『・・・そうだ。私はこの財を使う術を知らぬまま金に操られるままに懸命に策を練り続けその神経を削り続けて来た・・・理解したつもりになって居たのだ。人の命が金より軽いのであれば例外なくこの私の人生も操られる歯車の一片に過ぎなかったという事を・・・』


モニターの殺人鬼は左手でポケットからゆっくりと一丁の銃を取り出し深いため息をついた。それを更にゆっくりと自身のこめかみに近付ける・・・マスクの向こうの冷酷で無感情を思わせる男、サイレント・リバーズが少し微笑んだように見えた。


『私はその財全てを投じて私の墓を作った。私という存在を全て恒久的に消し去ってくれる墓を・・・そう、いま私の居るこの部屋。この部屋の壁は全て幾重もの特殊な合板で作られて居る。一度此処に入ってしまえば最後、中に居る私含め誰一人として二度と開ける事は叶わない・・・私を操って来た財はもう存在しない、そして操られ続けた私の存在していた証明も全て未来永劫消え去る。これで私の哲学は矛盾無く成就出来るのだ』


カチャリ・・・静かな部屋に撃鉄を引く音が響き渡る。


『最後になったが、君と出会えて良かったよ、君は私の唯一の友であり最高の探偵だった』


『さ・・・サイレント・リバー・・・』


やっとの思いで出た俺の声はすぐ後方から響く破裂音によって打ち消された。


驚いて振り返る俺の正面でゆっくりと崩れ落ちる人影。男の左手に握られた銃から放たれた銃弾はそのまま彼のこめかみを走り抜けた。


何が起こったのかを理解出来ずしばし呆然とする俺の脳裏にフッと冷たいものがかすめた。



『・・・まさか、この部屋は!!』


絶命した探偵の顔は微笑んでいた。

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