反省はしている。

妄想・性癖・思い込みを色濃く含んだ不甲斐無い創作物集です。
充実した無駄な時間を過ごしたい時に。

youtubeで楽曲挙げたりFacebookやってたりなんかもします。
各サイトで『キジマタク』を検索頂ければニョロっと出てくるようです。

タコ爺。

■登場人物。
タコ爺。・・・たこ焼き屋の店主。アル中。
お婆ちゃん。・・・タコ爺の奥さん。働き者。時々ちょっぴり怖い。
拓。・・・キジマタクの幼少時代に酷似している別人の少年。やや痛い。
拓の友人達。・・・『無駄に話が長くなる!』と言う理由だけで今回名前すら割愛された個性派少年達。次回以降このカテゴリーに出没。



俺が小学校の頃の話。

通学路を二筋ばかり外れた住宅街の一角にひっそりとちょっと変わったタコヤキ屋があった。

60後半位のおばあちゃんが焼くタコヤキ屋。
巷で見掛ける丸っこいタコヤキのそれとは異なり、タイヤキでも焼くかのように丸い穴の中にペーストを流し込みタコの切り身を落とし上から蓋をする。

ピックでコロコロ回すような高度な技術は一切使わずしばらく経ってから取り出せば釣鐘型のスライムみたいな形の仰天タコヤキが完成する。

サイズ的には普通のタコヤキの二倍はあろうかという巨大タコヤキ。
味の方は決して良いほうでは無かったが5個入り100円という非常にお手頃な価格も手伝い、何時も近所の子供達で賑わっていた。

価格の方は五個入り100円。
十個入りは何故か300円。

100円浮かそうと五個入りを時間差で2個買おうとする子供達の顔を尽く覚え、『300円払えやぁ~!!』と奥から怒鳴る常に酔っ払っている爺さん。

誰が呼び始めるとも無く俺等の間では『タコ爺』と呼ばれ恐れられる存在となった。

タコヤキ焼けるのを待つ子供達の横からおもむろに割り込みタコヤキ数個を奪って奥の部屋へと消えてゆくタコ爺。
何時もの事と再びペースト流してタコヤキ焼き始めるお婆ちゃん。

ある日とうとう痺れを切らした子供達が反撃に出た。

何時ものように割り込んできたタコ爺を囲みだす子供の群れ。

『おっちゃん今タコヤキ五個取ったやろ!!ちゃんと100円払えや~!!警察呼ぶど~!!』

間違いなくお婆ちゃん家内であるにも関わらず警察に何故か過剰反応示すタコ爺。

『ち…違うわアホ!このタコはな!朝イチ俺が捕ってきたタコや!!お前等に美味いタコヤキ食わせようっておっちゃん一生懸命なんや!』

『ルールはルールやからな~!順番守らんし100円位ちゃんと払えや~!!本気で警察呼ぶど~!』

引かない子供達、やっぱり何故か警察に露骨に動揺するタコ爺。

『判った!今度お前等にすごいタコ捕ってきてタコヤキにしてやるからそれで勘弁せぇ!!10メートルあるタコやど!間違いなく日本イチや!!』

『マジ!?絶対約束やぞ!10メートルのタコヤキ喰わせてくれるんやろな~!』

『おう!おっちゃん嘘だけは一度もついた事無いぞ!!やからそこ、道空けんかいっつ!』

今考えりゃおっちゃんの明らかなホラ話に心揺れる子供一同。
よくよく考えりゃおっちゃん猟師どころか何時行ってもシラフの状態すら見たこと無い。

『やっぱな~タコ爺只者じゃないよな~』

『どうする?俺等じゃ食いきれないよな?10メートルのタコヤキ』

『クラスの奴等も連れて行こうか?』

『良いね!俺達軽くヒーローだぜ!何ってったって10メートルのタコヤキだぜ!』

子供達の悪意無き純粋な心は何時しかその場しのぎで口走ってしまったタコ爺を追い詰めていく。翌日、クラス全員に話した事を報告に行く代表者一同。力なく『…任せておけ』と言い残しヨロヨロ奥へと居なくなるタコ爺。


その晩、事件は起こった。


釣竿とクーラーバックを握り締めタコ爺は行方不明となったのだ。

俺達がその事件を知るのはその翌日午後になってからだった…。


次の日、いつものようにタコヤキ買いに現れる少年達に妙に暗い表情のお婆ちゃん。

『あんた等、ウチの爺さんあんまり追い詰めたらあきまへんで』

『はぃ?』

『昨日フッと茶の間見てみたら爺さんの字で、タコ、釣ってくるって…それっきり今朝も帰って来ぃへんのや』

『やった!やっぱ約束守ってくれるんやぁ!!10メートルのタコヤキ喰わせてくれるんやろ!な!』

空気わきまえず期待感から口々に歓喜の声を漏らす少年達にとうとうお婆ちゃん堪忍袋の尾が切れる。

『冗談や無いわぁ~!!!私の財布からも小銭だけのこして☆■&★%◆$!!!!』

後半は非常に大人の事情っぽかったので聞き流した。
とにかくお婆ちゃん、タコ爺(及び共に持ち去られた共有物)の事が心配で堪らないらしい。仕事で持ち場を離れられないお婆ちゃんに変わって心当たりを探す事を約束する一同。

『くれぐれも頼むで!!もしウチの爺さんがパチンコ屋とかから出てきたらすぐに警察に電話してくれても良いからね!』


…多分、タコ爺の事が心配で堪らないのだろう。


『判った!婆ちゃん安心して任せとき!俺等がすぐに見付け出してやるから』

『頼むで!捕まえて来てくれたらあんた等には特別にタコヤキ10個200円で売ってあげるからね』

少年達は思った…やっぱ、売るんだ…そして、タコ爺『見つける』から『捕まえる』に変わってる事については子供ながらに触れてはならぬ事だと感じる何かがそこにはあった。


経てして子供達によるタコ爺捜索(捕縛)隊は結成された。


何処かの海岸で途方に暮れているタコ爺を想像し心の何処かで『…どうでもいいや』とか思いつつも少年達の暇潰し、そして頼られた事に対する満足感から可能性のあるポイントを探る熱意だけは堅固なモノとなった。

『あ、ウチの父ちゃんが良く行く場所なんやけど…』

父親が釣りを趣味に持つ少年Tが真っ先に動いた。

『こっからそう遠く無い場所やし、先週も父ちゃんそこでアジ大量に釣ってたぜ』

『…アジ釣れる場所ってタコもいっぱい捕れるんかな?』

『間違い無いって!!タコも同じ魚なんやから!!』


…違います。


『そうなんや~!タコって魚やったんや~!』

『ああ!何つったって英語でだぶりふぃっしぇって言うらしいぜぇ~あ、ふぃっしぇって英語で魚の事な!』

『流石物知りやな~!!』


…タコは軟体動物門頭足綱二鰓類って中の八腕形類に当たります。
魚類は一切関係ありません。


経てして明確(?)な進路を定めた少年救助隊はチャリンコで10分程の海岸へ向かう。

各々が出来立てのタコヤキ(五個入り)を片手に…


『タコ、釣ってくる』


広告の切れ端に一言残し失踪したタコ爺(アル中)。
大人の事情(経済面)からも事は刻一刻を争う急場。
仕事で身動きの取れないおばあちゃんに替わって少年達はタコ爺の捜索・発見・確保(捕獲)を約束する。

…少年達に残された猶予は決して十分なモノでは無い。


『何か、腹減って来ねぇ?』

『ああ…やっぱさ、料理は熱いうちに食べるのが基本だよな』

『そうそう、腹が減っては戦も出来ぬって言うからな』

『お前、やっぱ物知りだな~どぶれびっち辺りから違うとは思ってたケドよ』

『違うよ、さのばびっちだよ!!』

既に一体何の話をしていたのか原型すら留めてない一同、一筋先の橋げたに座り込みタコヤキ囲む。タコ爺の話題は既に雲の上、昨日見た『筋肉マン』に異様な盛り上がりを見せる一同。


少年達に残された猶予は刻一刻と失われて行く。


『…あ、そういや○○海岸行くんだよな?花火とか買って行かね?』

『良いね!!乗ったっ!!んじゃ○田のババアんトコ寄って行こうぜ~。あそこボッタクリやけどこのコースじゃそこしか駄菓子屋ないからな』


少年達に残された猶予(門限含む)は刻一刻と迫って行く。


万全の装備(駄菓子と花火)を揃えやっとのことで目的地に辿り着く一同、海岸の砂浜に降り立つ手前のちょっとした広場に陣取りトンボ花火を満喫する。トンボ飛ばすのにも飽きた頃にいよいよメインイベント。

発射台に立てられた無数の笛ロケット。

『3・2・1』の掛け声と共に放たれる笛ロケット、ロケットの飛んでいった先の草むらから慌てて飛び起きる偶然寝っ転がってた老人。


『何処のガキじゃあ!!出てこんかぁ!!!』


ワンカップ片手にドス効かす見慣れた老人。


『…あ』


恐ろしくアッサリ発見されるタコ爺。
昨日は独りビジネスホテルで晩酌タコ爺。
さっきまで酔い潰れて草むらに転がるタコ爺。

『…なんや、お前等か。丁度ええわい、今からタコ釣るトコ見せてやるからついて来い。』

むっくら起き上がりヨロヨロ千鳥足で歩き出すタコ爺。
片手にワンカップ、片手に釣竿を悠々装備勇者タコ爺。


『…帰りたい』


そんな気持ちをグっと堪えてついていく一同。
海岸の岩場に陣取り得意げにエサ箱を開くタコ爺。

『タ…タコの切り身??』

『お前等、ザリガニとか飼った事あるやろ?』

頷く少年達にニヤッツと微笑むタコ爺。

『共食いって知ってるやろ?大きい奴が小さい奴喰いおってん。やから大きいタコ捕まえようって思ったら普通のタコをエサにすれば間違いないんや』

…何かが違う…絶対それは何かが大きく間違ってる
その場に居たタコ爺を除く全ての一同が感じていた。

そんな空気を微塵も拾う事無く『せいやっ!』と勢い良く釣竿垂らすタコ爺。

当然何かが釣れるハズも無く異様な沈黙が流れる。

『なあ…なかなか釣れんケド…』

『黙っとれ!!大物は簡単にゃ釣れへんのや!』

再び沈黙。
『タコ爺、置いて逃げようか?』ってな話が大方纏まりかけたトコでタコ爺が重い口を開いた。


『お前等…クラス全員呼んだのか?』


『…ああ、全員呼んだ』


『…クラスの女子も呼んだのか?』


『…ああ、全員呼んだ』


『…そうか』


今考えてみれば明らかに危険な匂い漂う会話。
少年だった当時の俺等がその違和感を感じるハズも無く、ただタコ爺の気合が1.5倍増で膨れ上がる感覚は掴めた。


『そりゃあ!!』


気合と共に放たれる釣竿、先端の針にタコの切り身を従え海中深くへとその身を泳がせる。一同の飽くなき夢をその先端に請け負って。

先端が海中に飲み込まれた瞬間、初めてウキに異変が訪れる。
初めてしなる竿、奇跡は起きた!釣り糸に絡む触手。

子供ながらに信じられない光景、釣り針にタコ爺のフラフラ感がシンクロして無理矢理引っ掛けられた一匹のタコ。

『見たかぁ!!コレが切り身効果やぁ!!』

奇声を発しながら必死でリールを撒くタコ爺。

巻かれて海中から浮かび上がる70センチ以上あろうかという長い触手。こんなにも長い触手は見たことが無い。きっと相当な大物だろう!

今までのドン引きを綺麗に忘れタコ爺を応援する一同。

やがて本体の頭が海中から姿を現す。


『…え?』


直径5センチ位の申し訳無さそうな本体。そしてゆうに一メートルを軽く越える細長い触手。


『…こ…これは一体??』


呆気に捕られる一同と誇らしげに『10mの巨大タコの子供だ!』と言い張るタコ爺。

後から判ったことはコイツはテナガダコって言う韓国料理なんかで使われる種類のタコだって事。決して10mサイズなんかにゃなりゃしないって事。

夕刻、タコ爺に対し憤りを隠せない婆ちゃんを尻目にテナガダコをボイルしタコヤキの試食会。

タコヤキは想像以上に残念な味だったが奇跡というスパイスが上手く相乗して思い出の中では未だに最高のグルメの一角を担っている。
それから一年後、タコヤキ屋は閉店。タコ爺やおばあちゃんともそれっきり会うことが無い。

いよいよ幻の味となってしまった何故か紅生姜の入ったタコヤキ。
細長い触手が仇となってとぐろを撒く異様な食感のテナガダコタコヤキ。


懐かしさと相乗してか最近無性にあの微妙な味わいが恋しくてたまらない…。

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