反省はしている。

妄想・性癖・思い込みを色濃く含んだ不甲斐無い創作物集です。
充実した無駄な時間を過ごしたい時に。

youtubeで楽曲挙げたりFacebookやってたりなんかもします。
各サイトで『キジマタク』を検索頂ければニョロっと出てくるようです。

僕等の宇宙は終われない。

■登場人物。


拓。・・・・キジマタクの幼少時代に酷似しているあくまで別人の少年。やや痛い。
正義の人コーヘー・・・拓の友人。元国民的英雄パーマン一号の父を持つ。
アイアンメイデン・サトシ・・・拓の友人。彼が現れる場所には修羅が待つ。
ショーグン・コータ・・・拓の友人。絶大な経済力を誇る無双の独裁者。


任天堂が産み出したアポロ11号より高度なブレーン8BITを誇るZ80と天下を二分するCPU「2A03」を搭載したスーパーマシン。

その登場は昭和後期の子供達に大きなムーブメントを巻き起こした。

14800円でお茶の間から僕等の夢を遥か大宇宙へ導くサイバーパンクアミューズメントマシン、赤と白で構成された直径20センチ満たない僕等の宇宙船。


ファミリーコンピューター。


僕は小学校四年生になった。
そんな僕の元にもついに届けられた夢の詰まった宇宙船。

もうコータのハウスルールに則り反則規定を守らなくても良いんだ…。

サトシと2コン争いでアイアンクロー極めなくても良いんだ…。


僕の初フライトは記念すべき元旦の今日、高鳴る鼓動抑えゆっくりと握り締める梱包用のビニール袋から先程取り出したばかりのピカピカの操縦桿。

時折部屋に迷い込む冬の風が台所のストーブに吸い込まれ、その上に並んだモチを『ぴゅう』と鳴らす。

やがてその隣でやかんがカタカタッと小さな音色を奏でる。

彼はその口からより高い処へと伸び上がり、ストーブの隣で今まさに誕生しようとする新米アストロノーツを祝福するかのように静かに覆いかぶさって行く。

少しだけ開いた窓の向こう、去年の繁栄を終えた庭の木々達がザワザワッと新しい年の始まりを賛美した…。


『だからさぁ~一日二時間って制限時間の中で如何にスキルを上げるかが鍵なんだぜ!』


元パーマン一号の父親を持つ正義の人コーヘーの誓約は自他共に厳しい。
限られた鉄則の中で如何に己の能力を高めて行くか、己のハンデを逆に武器と捉えクラス最強のアストロノーツを目指す一人だ。


一週間後の日曜日に迫ったコヨーテ達の祭典。
不動のチャンプ、ショーグン・コータの家に招かれた一人として、彼は至高の特訓メニューを開発していた。


スーパーマリオブラザース、タイムトライアル。


ルールは至ってシンプル。1-1から1-4までのコースを如何に早くクリア出来るか?
今まで一度として破れた事の無い不動の帝王、ショーグン・コータの王座を奪うべく彼等は立ち上がる。


『拓さん。ワタクシの実力から言って普通に競うのはむしろアナタ方には決してフェアじゃないと思うのですがね?』


一際喧噪賑わう給食にミルメークが支給された昼下がり、牛乳にココアの甘美な芳香漂うパウダーを流し込みながらショーグンが口を開いた。


『いえ、決してアナタ方を過小評価している訳では無いのですよ。ただワタクシとアナタ方では培ってきたキャリアが余りにもかけ離れ過ぎているのですよ』


『回りくどい事言ってんじゃねぇ!俺達じゃ相手にならないとでも言いたいのかっ!!』


ちくわの磯辺焼きを口いっぱい頬張りながらコーヘーが噛み付く。
そんな緊迫した雰囲気の中でも将軍は眉一つ動かさない。


『誤解なさらないでください、コーヘーさん・・・一つ面白い提案があるだけですよ。それは皆様方にもきっと朗報であるはずです』


ショーグンの顔にかすかな笑みが浮かぶ。その場の者達を凍りつかせる幾度もの修羅を潜ったあの冷淡な笑みだ・・・。


『では今回のハウスルールを発表致しましょう。皆様方には一つ、何か別な事、つまりハンデを背負いながらゲームをプレイして頂きます。』


周囲がざわつく。
・・・救済処置としてハンデを背負うだと?
そんな反応を見渡し満足したようにゆっくり頷きコータは話を続ける。


『難しいハンデを克服しつつ1-4までをクリアした方はタイムに関係無く勝利とします。更に特に高い難易度を克服した者にはワタクシから少しばかり報奨金をお支払い致しましょう・・・そうですね、例えば片手でクリアした方には報奨金千円程で如何でしょうかね?』


せ・・・千円だと。


『ビックリマンチョコでしたら33個。ミニ四区でしたらハイパーミニモーターもセットで買えてしまいますねぇ・・・悪く無いお話だと思いますよ。勿論、これ以上のハンデを克服するならばもっと報奨金を上乗せ致しますよ』


『クックック・・・面白い話になってきたぜ。』


それまで貝の様に口を閉ざしていた男・・・アイアンメイデン・サトシ。
彼の不敵な笑みはその場に居た血に飢えたコヨーテ達に此れから起こる修羅を連想させるに充分過ぎるものだった。


『ショーグン・・・俺にとっちゃその程度のハウスルールじゃ生温い・・・目隠しだ!片手に目隠しなら貴様の資産を幾らもぎ取れるんだい?』


『・・・そうですね。五千円程で如何でしょうか?』


『ククッ・・・おもしれぇ。よし、拓っ!!コーヘーっ!!今から俺達は当日まで片手目隠しで生活をするんだ!!・・・迂闊だったなショーグン、貴様の王座もあとわずかだぜ。貴様の座はこのサトシが頂いたっつ!!!』


・・・何故お前の手柄なんだ。と、突っ込むより早く巌流島決戦の闘魂猪木の瞳でコブラツイスト極める正義の人コーヘー。


まぁ良い。
正直面白い事になってきたと考えているのは事実だ。
せいぜい油断していてくれ・・・王座を頂くのは、この、俺だ。


サトシの断末魔がクライマックスを迎える中、俺はミルメークをストローでかき混ぜながらほくそ笑んだ。


そして決戦当日。
ショーグンの家に集う猛者達の瞳に静かな闘志が過ぎる。
誰もがその培って来たスキルに自信を湛え、心静かに決戦の扉を開ける。
長きに渡り続いたコータの独裁に終止符を打つ。
そう・・・その役目は俺なんだと。


『俺、最後まで腕立てしながらクリアしちゃうぜ』


コーヘーが牙を剥いた。
彼は腕立てを繰り返しながらコントローラーを捌くという。


『腕立て・・・ですか。面白い提案ですがそれだけでは難易度が掴めませんねぇ・・・一体何回位されるおつもりですか?』


『1つクリア毎100回・・・合計400だ。』


どよめく一同。
連続で400だと・・・馬鹿な・・・
クリア以前に己の両腕が無事である保障も無いっ!!


『素晴らしい・・・良いでしょう。達成した暁には勝利と二千円の報奨金の権利を差し上げますよ』


ニヤリと笑い構えるコーヘー。
コントローラーを床に寝かせ左手で十字キー、右手でボタン・・・つまり限りなく両腕の隙間を狭めた状態での腕立てとなる。
信じられない・・・俺達のライバルにこんな超人が潜んで居たとは。


ぐちゃっつ。
テレッテテレレレレーーーーーーーレ。


腕を曲げると共に一切の迷い無くクリボーに突撃。
コーヘー・・・どう考えても無謀だよ。


さて、俺の出番だ。


コーヘーには悪いが俺は可能性の無い行為に美学を感じる男では無い。
そう、このハウスルールは罠だ。報奨金という甘美な誘惑に喰われた瞬間、この勝負は決まってしまうのだ。
俺の目的は唯一つ。コータを王座から引きずりおろす事・・・それだけだっ!!


『ショーグン、俺、片手でやるわ』


この日の為に充分な練習はしてきた。今じゃ肥後の守使って片手で鉛筆すら削れるっつ!!


ぐちゃっつ。
テレッテテレレレレーーーーーーーレ。


『クックック・・・拓。恐れる者に勝利は永遠に叶わぬのだよ』


サトシが口を開く。


『コーヘー・・・貴様は勇敢ではあったが己を知る面で欠落していた。そして拓。貴様は王座に目が眩み、この戦いの本質を理解しては居なかった・・・そうだ。此処は戦場、体の良いお遊戯会ではないのだっ!!・・・そうだろ?ショーグン』


突然振られたショーグンの表情は若干困っていた。


『・・・まあ良いさ。その警戒心とやらが今までショーグンであり続けた所以なのだろう・・・貴様達は第六感の存在を知っているかな?そう、視覚・味覚・嗅覚・聴覚・触覚・・・俺達はそんな便利な五感の恩恵の代償に途方も無い犠牲を払い続けて来た。つまりはそれを超えた第六感。本来誰しもが保有しているハズの宇宙・・・そう、森羅万象、万物は本来一つのモノ。俺達は何時しかそんな己を個体単位で切り離してきたのだっつ!』


『何が・・・言いたいのですか?サトシさん。』


ショーグンは本当に困っていた。


『ショーグン・・・俺に目隠しを。その上で俺の両手両足を縛ってくれ・・・俺はその状態でクリアしてみせよう』


当然スタートボタンすら押せず謎の言語で奇声発しながら転がるサトシを部屋の隅っこの邪魔にならない処まで運び最後まで己に一切ハンデを課す事無く普通に悠々とクリアするコータにただブーイングを繰り返す。そんな目的に対する羅針盤を完全に見失った頂上決戦も『七時からのドラゴンボールが見たい』という誘惑に負け解散。俺達にまた何時もの日常が帰ってきた。


あれから随分と月日が流れた。


正義の人コーヘーはその運動神経から陸上部に入り、何故かグレたがその後、スタンドに就職し守るべき家族の為良い汗流しているらしい。
ショーグン・コータは何故か武道の道に進み柔道部へ。幼少の頃より培われた卓越した策士としての顔は彼になかなか優秀な成績をもたらしたようだ。
アイアンメイデン・サトシは途中で何らかの使命を感じてしまったらしく通勤者で賑わう朝の駅のホームで『神を信じぬ者は全て死ぬ!!』と叫び暴れそれからは良く解らない。


そして俺は此処でこんな事を書いている。


もう随分と疎遠になったしお互い連絡先も解らない。
ただ、時折こうやって文章にしたためながら思い出し、そして思うのだ。


あのくだらなくも尊い記憶の中、そんな些細な一つ一つに途方も無く真剣だった。
僕等の宇宙はまだ、終われない。


あのピカピカの操縦桿はまだクリア出来ない遠い先へと繋がってたんだ。

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