反省はしている。

妄想・性癖・思い込みを色濃く含んだ不甲斐無い創作物集です。
充実した無駄な時間を過ごしたい時に。

youtubeで楽曲挙げたりFacebookやってたりなんかもします。
各サイトで『キジマタク』を検索頂ければニョロっと出てくるようです。

サンタクロースは眠れない…

■登場人物。
アントワネット・タカコ・・・拓。の母。最高権力者。大量のお菓子を保有している。
リュウケン・ミキオ・・・一子相伝奥義伝承者。奥義を使っている所は誰も見たことがない。
拓。・・・・キジマタクの幼少時代に酷似している別人の少年。やや痛い。
正義の人コーヘー・・・拓の友人。国民的英雄パーマン一号の父を持つ。
アイアンメイデン・サトシ・・・拓の友人。彼が現れる場所には修羅が待つ。



良い子の元へ遥か北の誰も知らない森の奥からソリに乗ってやって来る。
真っ白な袋にギッシリと夢を詰め込んで誰にも気付かれないようにそっとやって来る。

サンタクロースに強く憧れていた。

年一度のこの夜に、せめてひと目見てみたい…
真っ白な髭を伸ばした優しい笑顔を湛えたお爺さん。
でも良い子で眠って居なけりゃ決してサンタさんは現れない。
だから薄目を開けて眠ったフリをする。

でも毎年決まって気が付けば朝、枕元にお菓子の詰まった袋が一つ。


僕は五歳になった。
保育園の年長組にまで大きくなった。
今年は…絶対に眠らない。
今年こそはきっと叶う。
だって保育園で一番大人の年長組なのだから。


『ほら、貴方もサンタさんに手紙を書きなさい。何が欲しいか事細かに書くのよ!ワタクシがサンタさんに直接直訴して差し上げるからねぇ』


母、マリー・アントワネット・タカコが恒例の紙とペンを持って現れた。
そう、今年もこの季節がやってきた。
俺にとって最大の正念場、クリスマスまであと数日。
今年の俺には一つの大きな野望がある。
そしてその野望を実現させる為、人知れずハードなトレーニングを克服してきたのだ。
まずは撒餌だ…子供らしく欲しい物を手紙に書き綴るとしよう。


拓。『えっと…ファミコン…と』


アントワネット(以下アン)『!!!っつ!!…無礼者っつ!!!』


拓。『はい??』


アン『そんな目の悪くなる悪魔の機械を国際的聖職者であるサンタ氏に頼むとは何事です!!そんな悪い子に届くアイテムはせいぜい石炭が関の山よっつ!!』


せ…石炭!?…


拓。『じゃ…じゃあモトクロ…』


アン『元来サンタ氏への要望はお菓子の詰め合わせと決まっているでしょうっつ!!身分をわきまえなさいっつ!!!』

…じゃあ、この手紙の意味って一体。


言いかけて口をつぐむ。


いや、此処で良い子の均衡を壊してはならぬ…此処で崩れてしまえばこの一年辛酸を舐め培って来た計画が全て霧散してしまう。
耐えろ…耐えるんだ…そう…俺なら必ず出来る。
何故なら俺は最年長の年長組なのだから…


拓。『でも…でもさ…僕甘い物はちょっと…』


アン『…それ以上言ってごらんなさい、語ってごらんなさい。お菓子を嫌う子供と自殺をした子供は死後賽の河原で永遠に小石を積み上げる強制労働を強いられる事になるのよ。単純作業でとっても目が疲れるわ!腰も痛くなるわ!労組作って運動しても鬼の権限で勿論即座に解散よっつ!鬼ってとっても怖いわよ!!』


…子供の僕に軽作業の弊害を語るあなたがとっても怖いです。


まあ良い。この手紙は俺とサンタを繋ぐ為の序奏に過ぎない。
この日へ向けて俺は万全の準備を施してきた。
もう去年のように朝日に苦悩の表情を浮かべる失態は犯さない。
手紙を封筒に入れ、俺は誰にも気付かれないようほくそ笑んだ…。


友人のコーヘーの父親はパーマン一号らしい。
今年もコーヘーの親父さんは多忙なサンタの立場を気遣い大空を飛び遥か北のサンタの国までコーヘーのプレゼントを直接貰いに行くと言う。


コーヘー『でさぁ、今年は俺も父ちゃんの仕事を手伝って近所のゴミ拾いパトロールしたのよぉ。だから父ちゃんサンタから特別なプレゼント貰って来るって言ってたぜぇ~』


拓。『ゴミ拾いパトロール??』


コーヘー『あれ?拓ってば知らねぇの?近所に巻かれてるゴミってばあれ、ショッカーがばら撒いた細菌兵器の材料なんだってよ。だから俺が拾って父ちゃんが空を飛んで安全な処へ捨てに行くって寸法よぉ~。少しは感謝しろよなぁ』


パーマンとショッカーの接点は今一つ判らなかったがどうやらコーヘーは凄い事をやってのけたらしい。
サンタ争奪戦の最大のライバルは意外に身近な処に居たようだ。


サトシ『サンタ??お前等まだそんなん信じてんの?』


アイアンメイデン・サトシ。
俺達の仲間内で最もクールで危険な匂いの漂うインテリ。
奴が口を挟むと決まってその場の男供は血に餓えた一匹のコヨーテと化す。


サトシ『教えてやるよ…サンタはな、1904年俺達が産まれるずっと前に日露戦争の煽りで絶滅したんだ。あの赤いコートは血に塗れた罪も無いサンタ達の冥福を祈るが為に後世の者が後付した悲しきデザインなのさ』


拓。『まてよ!サンタは生きている!その証拠に毎年プレゼントが…』


サトシ『フッ…それは過去の汚点をもみ消そうとする上層部の陰謀に過ぎないね。考えてもみな。何故サンタは世代交代せぬのだ??何故サンタの両親・子供・孫は存在せぬのだ??…そう、もう子孫を残す事は出来ぬのだよ…歴史の中に永遠に取り残された歳を取らぬ老人。永遠の美女、オードリーがそうであるようにな』


…オードリー、マジで関係ねぇ…


そう呟くより早く例によってサトシに飛び掛る正義の人、コーヘー
まあ良い、例えこの保育園が鮮血に染まろうとも俺には成し遂げなければならぬ野望があるのだから…
もう去年のように朝日に苦悩の表情を浮かべる失態は犯さない。
例えその先にサトシの語る陰謀が待ち受けて居ようとも。
数人に取り押さえられ華麗に筋肉バスターを極められ悶絶するサトシの悲鳴を背に俺はこっそりほくそ笑んだ…。


深夜深まり街明かりは消え行き微かにさっき食べたチキンのスパイシーな残り香残るPM9:00。
消灯時間を過ぎ寝静まる家族に気付かれぬよう、俺は例のアイテムをこっそり枕元に忍ばせた。
そう、ここ一ヶ月の荒行、その終止符を打つ為の究極覚醒アイテム。


まんきんたん。


オロナインに始まりメンソレータム…そして遂に今夜この虎がまぶたの上で咆哮を上げる。
大丈夫だ…今の俺ならこの激痛すらも克服し、快適な不眠ライフを満喫出来るはずだ。
ラベルに描かれた獰猛果敢な一匹の虎。


そう…俺は今夜虎になる。


一つ大きく深呼吸し蓋を開け、両の目蓋にササっと塗りこむ。
瞬間目蓋の上で暴れ狂うまんきんたん。


そうだ…これで良いんだ…


もう俺は眠れぬ体となってしまった…後悔は無いさ。
困難はそれを克服し得る者にのみ与えられた特権。
そう、この虚無感も年長組として定められた性やもしれぬ。

ギンギンに覚醒しながら再び思い焦がれる。


フカフカした赤いコート。


優しい笑みを湛えた彫りの深い目尻。


白くて長いフサフサの髭。


可愛い二匹のトナカイの首に付けたリンリンと心地よく響く鈴の音色。


そしてなにより僕等の夢を幾つも詰め込んだ大きくて雪のように白い布袋。


『…ゲファッツ!!!!』


鼻っ面に激しい激痛を感じ目を開く。
!?…何時の間にか眠っていた??
バカな…究極ドラッグまんきんたんが効かないなんて…

って言うか…鼻血ぃぃぃぃぃっつ!!!!

なんてこった…!!
これは一体何の討ち入りだっつ??俺を年長組の者と知っての狼藉かっつ!!
俺がハート様なら貴様既に死んでたぜ。



『…あいたたた』


…へ?
…と…父ちゃん??


目を開けると腰をさすりさすり父リュウケン・ミキオ。
隣で眠っている妹につまづき肘から俺の鼻っ面にダイヴ父リュウケン。
お義理のように頭にサンタ帽、Tシャツにジャージ姿父リュウケン。


拓『と…父ちゃん…』


リュ『フッ…見てしまったか…拓よ』


そう言いながら菓子折りを手渡す父リュウケン。


リュ『そうだ…お前の察しの通り…俺がサンタだ』


え…いや…ちょっと??


リュ『折角の聖なる夜だ、貴様の質問にも答えてやろう…さあ、何が聞きたい?サンタの国の話か?それともトナカイ共の話か?』


拓『え…えっと…この12月にTシャツって…寒くない?』


リュ『フッ…己の肉体を極めサンタともなれば冬の寒さ等蚊程にも感じぬわ!この程度の冬空、Tシャツ一枚で十分よ!では、さらばだっつ!!』


そう言い残し深夜の郊外へと走り去る父、リュウケン・ミキオ改めサンタ。



彼はそのまま朝まで帰ってくる事は無かった…



翌朝、不機嫌な母、アンとくしゃみの止まらぬリュウケン改めサンタ。


…コーヘー。サトシ。
…俺の親父、サンタだったよ。


何故か誰にも自慢する気にはなれなかった。
深々と降り注ぐ聖なる夜の雪空、彼は確かにサンタになった…

タコ爺。

■登場人物。
タコ爺。・・・たこ焼き屋の店主。アル中。
お婆ちゃん。・・・タコ爺の奥さん。働き者。時々ちょっぴり怖い。
拓。・・・キジマタクの幼少時代に酷似している別人の少年。やや痛い。
拓の友人達。・・・『無駄に話が長くなる!』と言う理由だけで今回名前すら割愛された個性派少年達。次回以降このカテゴリーに出没。



俺が小学校の頃の話。

通学路を二筋ばかり外れた住宅街の一角にひっそりとちょっと変わったタコヤキ屋があった。

60後半位のおばあちゃんが焼くタコヤキ屋。
巷で見掛ける丸っこいタコヤキのそれとは異なり、タイヤキでも焼くかのように丸い穴の中にペーストを流し込みタコの切り身を落とし上から蓋をする。

ピックでコロコロ回すような高度な技術は一切使わずしばらく経ってから取り出せば釣鐘型のスライムみたいな形の仰天タコヤキが完成する。

サイズ的には普通のタコヤキの二倍はあろうかという巨大タコヤキ。
味の方は決して良いほうでは無かったが5個入り100円という非常にお手頃な価格も手伝い、何時も近所の子供達で賑わっていた。

価格の方は五個入り100円。
十個入りは何故か300円。

100円浮かそうと五個入りを時間差で2個買おうとする子供達の顔を尽く覚え、『300円払えやぁ~!!』と奥から怒鳴る常に酔っ払っている爺さん。

誰が呼び始めるとも無く俺等の間では『タコ爺』と呼ばれ恐れられる存在となった。

タコヤキ焼けるのを待つ子供達の横からおもむろに割り込みタコヤキ数個を奪って奥の部屋へと消えてゆくタコ爺。
何時もの事と再びペースト流してタコヤキ焼き始めるお婆ちゃん。

ある日とうとう痺れを切らした子供達が反撃に出た。

何時ものように割り込んできたタコ爺を囲みだす子供の群れ。

『おっちゃん今タコヤキ五個取ったやろ!!ちゃんと100円払えや~!!警察呼ぶど~!!』

間違いなくお婆ちゃん家内であるにも関わらず警察に何故か過剰反応示すタコ爺。

『ち…違うわアホ!このタコはな!朝イチ俺が捕ってきたタコや!!お前等に美味いタコヤキ食わせようっておっちゃん一生懸命なんや!』

『ルールはルールやからな~!順番守らんし100円位ちゃんと払えや~!!本気で警察呼ぶど~!』

引かない子供達、やっぱり何故か警察に露骨に動揺するタコ爺。

『判った!今度お前等にすごいタコ捕ってきてタコヤキにしてやるからそれで勘弁せぇ!!10メートルあるタコやど!間違いなく日本イチや!!』

『マジ!?絶対約束やぞ!10メートルのタコヤキ喰わせてくれるんやろな~!』

『おう!おっちゃん嘘だけは一度もついた事無いぞ!!やからそこ、道空けんかいっつ!』

今考えりゃおっちゃんの明らかなホラ話に心揺れる子供一同。
よくよく考えりゃおっちゃん猟師どころか何時行ってもシラフの状態すら見たこと無い。

『やっぱな~タコ爺只者じゃないよな~』

『どうする?俺等じゃ食いきれないよな?10メートルのタコヤキ』

『クラスの奴等も連れて行こうか?』

『良いね!俺達軽くヒーローだぜ!何ってったって10メートルのタコヤキだぜ!』

子供達の悪意無き純粋な心は何時しかその場しのぎで口走ってしまったタコ爺を追い詰めていく。翌日、クラス全員に話した事を報告に行く代表者一同。力なく『…任せておけ』と言い残しヨロヨロ奥へと居なくなるタコ爺。


その晩、事件は起こった。


釣竿とクーラーバックを握り締めタコ爺は行方不明となったのだ。

俺達がその事件を知るのはその翌日午後になってからだった…。


次の日、いつものようにタコヤキ買いに現れる少年達に妙に暗い表情のお婆ちゃん。

『あんた等、ウチの爺さんあんまり追い詰めたらあきまへんで』

『はぃ?』

『昨日フッと茶の間見てみたら爺さんの字で、タコ、釣ってくるって…それっきり今朝も帰って来ぃへんのや』

『やった!やっぱ約束守ってくれるんやぁ!!10メートルのタコヤキ喰わせてくれるんやろ!な!』

空気わきまえず期待感から口々に歓喜の声を漏らす少年達にとうとうお婆ちゃん堪忍袋の尾が切れる。

『冗談や無いわぁ~!!!私の財布からも小銭だけのこして☆■&★%◆$!!!!』

後半は非常に大人の事情っぽかったので聞き流した。
とにかくお婆ちゃん、タコ爺(及び共に持ち去られた共有物)の事が心配で堪らないらしい。仕事で持ち場を離れられないお婆ちゃんに変わって心当たりを探す事を約束する一同。

『くれぐれも頼むで!!もしウチの爺さんがパチンコ屋とかから出てきたらすぐに警察に電話してくれても良いからね!』


…多分、タコ爺の事が心配で堪らないのだろう。


『判った!婆ちゃん安心して任せとき!俺等がすぐに見付け出してやるから』

『頼むで!捕まえて来てくれたらあんた等には特別にタコヤキ10個200円で売ってあげるからね』

少年達は思った…やっぱ、売るんだ…そして、タコ爺『見つける』から『捕まえる』に変わってる事については子供ながらに触れてはならぬ事だと感じる何かがそこにはあった。


経てして子供達によるタコ爺捜索(捕縛)隊は結成された。


何処かの海岸で途方に暮れているタコ爺を想像し心の何処かで『…どうでもいいや』とか思いつつも少年達の暇潰し、そして頼られた事に対する満足感から可能性のあるポイントを探る熱意だけは堅固なモノとなった。

『あ、ウチの父ちゃんが良く行く場所なんやけど…』

父親が釣りを趣味に持つ少年Tが真っ先に動いた。

『こっからそう遠く無い場所やし、先週も父ちゃんそこでアジ大量に釣ってたぜ』

『…アジ釣れる場所ってタコもいっぱい捕れるんかな?』

『間違い無いって!!タコも同じ魚なんやから!!』


…違います。


『そうなんや~!タコって魚やったんや~!』

『ああ!何つったって英語でだぶりふぃっしぇって言うらしいぜぇ~あ、ふぃっしぇって英語で魚の事な!』

『流石物知りやな~!!』


…タコは軟体動物門頭足綱二鰓類って中の八腕形類に当たります。
魚類は一切関係ありません。


経てして明確(?)な進路を定めた少年救助隊はチャリンコで10分程の海岸へ向かう。

各々が出来立てのタコヤキ(五個入り)を片手に…


『タコ、釣ってくる』


広告の切れ端に一言残し失踪したタコ爺(アル中)。
大人の事情(経済面)からも事は刻一刻を争う急場。
仕事で身動きの取れないおばあちゃんに替わって少年達はタコ爺の捜索・発見・確保(捕獲)を約束する。

…少年達に残された猶予は決して十分なモノでは無い。


『何か、腹減って来ねぇ?』

『ああ…やっぱさ、料理は熱いうちに食べるのが基本だよな』

『そうそう、腹が減っては戦も出来ぬって言うからな』

『お前、やっぱ物知りだな~どぶれびっち辺りから違うとは思ってたケドよ』

『違うよ、さのばびっちだよ!!』

既に一体何の話をしていたのか原型すら留めてない一同、一筋先の橋げたに座り込みタコヤキ囲む。タコ爺の話題は既に雲の上、昨日見た『筋肉マン』に異様な盛り上がりを見せる一同。


少年達に残された猶予は刻一刻と失われて行く。


『…あ、そういや○○海岸行くんだよな?花火とか買って行かね?』

『良いね!!乗ったっ!!んじゃ○田のババアんトコ寄って行こうぜ~。あそこボッタクリやけどこのコースじゃそこしか駄菓子屋ないからな』


少年達に残された猶予(門限含む)は刻一刻と迫って行く。


万全の装備(駄菓子と花火)を揃えやっとのことで目的地に辿り着く一同、海岸の砂浜に降り立つ手前のちょっとした広場に陣取りトンボ花火を満喫する。トンボ飛ばすのにも飽きた頃にいよいよメインイベント。

発射台に立てられた無数の笛ロケット。

『3・2・1』の掛け声と共に放たれる笛ロケット、ロケットの飛んでいった先の草むらから慌てて飛び起きる偶然寝っ転がってた老人。


『何処のガキじゃあ!!出てこんかぁ!!!』


ワンカップ片手にドス効かす見慣れた老人。


『…あ』


恐ろしくアッサリ発見されるタコ爺。
昨日は独りビジネスホテルで晩酌タコ爺。
さっきまで酔い潰れて草むらに転がるタコ爺。

『…なんや、お前等か。丁度ええわい、今からタコ釣るトコ見せてやるからついて来い。』

むっくら起き上がりヨロヨロ千鳥足で歩き出すタコ爺。
片手にワンカップ、片手に釣竿を悠々装備勇者タコ爺。


『…帰りたい』


そんな気持ちをグっと堪えてついていく一同。
海岸の岩場に陣取り得意げにエサ箱を開くタコ爺。

『タ…タコの切り身??』

『お前等、ザリガニとか飼った事あるやろ?』

頷く少年達にニヤッツと微笑むタコ爺。

『共食いって知ってるやろ?大きい奴が小さい奴喰いおってん。やから大きいタコ捕まえようって思ったら普通のタコをエサにすれば間違いないんや』

…何かが違う…絶対それは何かが大きく間違ってる
その場に居たタコ爺を除く全ての一同が感じていた。

そんな空気を微塵も拾う事無く『せいやっ!』と勢い良く釣竿垂らすタコ爺。

当然何かが釣れるハズも無く異様な沈黙が流れる。

『なあ…なかなか釣れんケド…』

『黙っとれ!!大物は簡単にゃ釣れへんのや!』

再び沈黙。
『タコ爺、置いて逃げようか?』ってな話が大方纏まりかけたトコでタコ爺が重い口を開いた。


『お前等…クラス全員呼んだのか?』


『…ああ、全員呼んだ』


『…クラスの女子も呼んだのか?』


『…ああ、全員呼んだ』


『…そうか』


今考えてみれば明らかに危険な匂い漂う会話。
少年だった当時の俺等がその違和感を感じるハズも無く、ただタコ爺の気合が1.5倍増で膨れ上がる感覚は掴めた。


『そりゃあ!!』


気合と共に放たれる釣竿、先端の針にタコの切り身を従え海中深くへとその身を泳がせる。一同の飽くなき夢をその先端に請け負って。

先端が海中に飲み込まれた瞬間、初めてウキに異変が訪れる。
初めてしなる竿、奇跡は起きた!釣り糸に絡む触手。

子供ながらに信じられない光景、釣り針にタコ爺のフラフラ感がシンクロして無理矢理引っ掛けられた一匹のタコ。

『見たかぁ!!コレが切り身効果やぁ!!』

奇声を発しながら必死でリールを撒くタコ爺。

巻かれて海中から浮かび上がる70センチ以上あろうかという長い触手。こんなにも長い触手は見たことが無い。きっと相当な大物だろう!

今までのドン引きを綺麗に忘れタコ爺を応援する一同。

やがて本体の頭が海中から姿を現す。


『…え?』


直径5センチ位の申し訳無さそうな本体。そしてゆうに一メートルを軽く越える細長い触手。


『…こ…これは一体??』


呆気に捕られる一同と誇らしげに『10mの巨大タコの子供だ!』と言い張るタコ爺。

後から判ったことはコイツはテナガダコって言う韓国料理なんかで使われる種類のタコだって事。決して10mサイズなんかにゃなりゃしないって事。

夕刻、タコ爺に対し憤りを隠せない婆ちゃんを尻目にテナガダコをボイルしタコヤキの試食会。

タコヤキは想像以上に残念な味だったが奇跡というスパイスが上手く相乗して思い出の中では未だに最高のグルメの一角を担っている。
それから一年後、タコヤキ屋は閉店。タコ爺やおばあちゃんともそれっきり会うことが無い。

いよいよ幻の味となってしまった何故か紅生姜の入ったタコヤキ。
細長い触手が仇となってとぐろを撒く異様な食感のテナガダコタコヤキ。


懐かしさと相乗してか最近無性にあの微妙な味わいが恋しくてたまらない…。

イケメンマスク。

おや?このマスクの事ですね?

こちら、着けた瞬間誰でもモテ顔、『イケメンマスク』と申します。


ヤフオクで4980円、送料別。
…とっても良い買い物をした、と、思って居ります。

ほら、聴こえて来ますよ、聴こえて居ますよ、世の女子達のキャーキャーが。


ワタクシ昨日は早速この効果を試そうと、お披露目がてら近所のコンビニまで行って来たのですよ。

それはそれはまさに素晴らしい反響でした……。
道行く人がこ気味良い程にワタクシの方を振り返る、向き直す。
ワタクシはマスクの下恍惚の微笑みを湛え、思いました。

『嗚呼、モテモテとは何と罪な事なのだ』…ってね。
今、この瞬間此処に居る全ての人々の視界をワタクシ一色に染め上げてしまったのですから。

中でもコンビニの店員さんなどはその小柄な身体に似合わず更に情熱的でしたよ。

……ほら、判ります?ここん処袖の下、この蛍光色の緑色。

取れないんですよ、帰ってから三回も洗濯したと言うのに。

……そこで、ワタクシは気付いたのです……彼女の本当の気持ちに。
そう、彼女はあの一瞬でイケメンであるこのワタクシを彼女だけのものにしようと必死に目の回りにある記録に遺る物を捜し出したのです。
彼女の震える決意を込めた唇にもう少し早く気付いていてあげる事が出来たなら………あの時、何故私は驚き一目散に走り去ってしまったのだろう………。


独り取り残されてうなだれる彼女の華奢な背中を想うと……一晩経った今でもまだ心が痛むのです。


……おや?今日のお客様は何だかリアクション控え目ですね?


……………ワタクシも馬鹿ではございません。
あなた方の仰りたい事、最初から薄々とは気付いていたのですよ。

私は………騙されている。
そう!ワタクシは……騙されている!!

そうなのです!釘付けにしても視線の質が何だか違うのですよ!!
こちとら例えるならば動物園のアイドル、パンダの赤ちゃんを見るようなキラキラした視線を期待すれども、届いて来るのはヤドクガエルさながら明らかな珍獣をみる好奇と非難の眼差しなのですよ!!


……悔しい。
……そして、恥ずかしい。

4980円、送料別程の現金を上手く活用すれば飲み屋のお姉ちゃんの手位は握れたかも知れぬのに!


……そんな、つい先程でした。

ワタクシ、遂に辿り着いたのですよ。モテモテの入り口に。

ええ、ふと立ち読みしたパチンコ雑誌の裏表紙で輝くキーホルダー。

身に付けた瞬間、競馬・パチンコ連戦連勝!
夢にまで見た札束風呂で、今じゃ3P4Pし放題。


今じゃ、3P4Pし放題!!!

このタイミングで出会えた私はとてもツイている!



…前置きが長くなりました。
本日皆様にお集まり頂いたのは他でもございません。


皆様、お金持ちのイケメンは………お好きですか?